日本の47都道府県における『労働時間』『収入』『余暇の時間』が自殺に与える影響

労働、収入、そして余暇。

どれも私たちの生活に大きな影響を与えているものですが、自殺に対してはどのような影響を与えるのでしょうか?

今回は、そんな疑問について研究した論文をご紹介します。

今日の論文

Combined Effects of Working Hours, Income, and Leisure Time on Suicide in All 47 Prefectures of Japan. TAKEUCHI A, SAKANO N, MIYATAKE N. Ind Health. 2014;52(2):137-140. doi:10.2486/indhealth.2013-0182.

論文を3行で説明!

日本の研究チームが自殺率と『労働時間』『収入』『余暇に費やす時間』の関連性について調べました。

結果、『長い労働時間』『低い収入』『短い余暇の時間』のそれぞれが日本の男性の自殺率を高めるという結果になりました。

中でも、余暇の時間を延ばすことが自殺予防に役立つ可能性があるという結論になりました。

研究の詳細な内容

中央労働災害防止協会の竹内氏らが行った研究です。

日本では一年間で死亡する人のうち2.5%が自殺によって死亡しており、これはすべての死因の中で7位という高い順位を占めています(2010年現在)。この状況を何とかするためには、なぜ人々が自殺をしたくなるのかを探らなければなりません。

竹内氏らは、『余暇に費やす時間』が人々の自殺に影響するのではないかと仮説を立てました。

それを検討するために、竹内氏らは47都道府県の自殺率と、それぞれの都道府県の人たちが余暇に費やしている時間を比較することにしました。

また、『余暇の時間』に関連する経済的な指標として、『労働時間』や『収入』も一緒に比較しました。

都道府県別の自殺率

ここで、都道府県間の自殺率の違いについて少し見ておきましょう。

平成27年の厚労省自殺対策白書によりますと、都道府県間では以上のような自殺率の差があるとされています。このグラフから読み取ると、自殺率が高いのは秋田県、岩手県、新潟県、山梨県。低いのは神奈川県、大阪府あたりでしょうか。平成27年で最も自殺率が低い大阪府と、最も高い秋田県を比較してみると、十万人当たり15人程度の大阪府に対して秋田県は27人程度と、実に2倍近い差があることがわかります。

こうした都道府県間の自殺率の差を生んでいるものは何なのか?

それを調べることで人々の自殺に関する理解が深まると、竹内氏らは考えたわけですね。

結果

さて、実際に比較検討してみると、面白いことがわかりました。

今回の研究では男性・女性それぞれを別々に比較していたのですが、『労働時間』『収入』『余暇の時間』の全てにおいて、男性の自殺率とは関連がみられたものの、女性の自殺率とは関連が見られなかったのです。

なお、男性では、

  • 労働時間が長いこと
  • 収入が低いこと
  • 余暇の時間が短いこと

が自殺率の増加につながるという、ある意味で我々にとっても非常に理解しやすい結果になりました。

また、余暇の中でも自分磨きの時間趣味の時間の長さは、自殺率と関連を示した(短いほど自殺率が増加した)のに対し、受動的な余暇の時間(家でリラックスをして過ごす時間の事。テレビ視聴やラジオの聴講、音楽鑑賞など)やスポーツ、社会活動の時間は自殺率との関連を示しませんでした。

 

ただ、ここでひとつの疑問が残ります。

「労働時間が短かかったり収入が多ければ余暇の時間は長くなるだろうし、本当に余暇の時間が長いことが自殺率に影響したのか? 余暇の時間が長い人は労働時間が短かったり収入が多かったりするだけではないのか?」

という疑問です(この場合の労働時間や収入の様な因子を交絡因子と言います)。

そこで、竹内氏らは『労働時間』と『収入』の影響を取り除いたうえで、『余暇の時間』男性の自殺率を比較してみました。結果は、先ほどと同じく、余暇の時間が短い方が自殺率は高くなるというものでした。

こうした結果から、竹内氏らは、『余暇に費やす時間』を増やすことが日本の男性の自殺予防に有用であると結論しています。

ライターから一言

さて、今回の論文はいかがでしたか? 『労働時間』『収入』『余暇の時間』のいずれも、男性の自殺にしか影響しないのは興味深いですね!

こうした研究成果が、老若男女問わず十分に余暇の時間が取れる社会の実現につながってくれるといいのですが・・・。(ライター:MS)

抄録

この研究は日本の47都道府県における、『労働時間』『収入』『余暇の時間』が自殺率に与える影響について、都道府県単位で検討した研究である。まず男性の年齢調整自殺率(年齢構成を調節した自殺率)と、それぞれの因子との相関関係を見てみた。すると、自殺率は、『労働時間』とよく相関していることが分かった(r=0.587, p<0.0001)。一方で『収入』とは負の相関を示している(r=-0.517, p=0.0002)。また、『余暇の時間』のうち、『自分磨きに使う時間』と『趣味に使う時間』も、自殺率とは負の相関を示している(r=-0.447, p=0.0016)(r=-0.511, p=0.0002)。次に、階層的なマルチ回帰分析を行った結果、『余暇に費やす時間』は、『労働時間』と『収入』の影響を取り除いたあとでも、自殺率に影響を与える因子であるということがわかった。しかし、『余暇に費やす時間』の影響は、『労働時間』、『収入』が自殺率に与える影響に比べて小さいものであった。男性の間では以上のことが分かった一方で、女性の間では、これらの因子のいずれもが自殺率に対して影響を与えなかった。これらの結果より、『余暇の時間』を増加させることが、日本人の男性の自殺を防ぐために有用であることが示唆された。