Facebookと従来型の支援元-精神的に追い詰められた時、どちらを頼るか  退役軍人を対象とした横断調査

Facebookは世界中で利用される代表的なソーシャルネットワークサービス(SNS)の一つであり、総務省によると日本国内でも人口の4割強が何らかの形でFacebookを利用しているとの調査結果も得られています(情報通信白書、2018)。そんな中、「Facebookは精神的な支援を求める場として見なされうるか?」について人々の意識を調査したチームがあります。今回紹介するのはそんな少し個性的な論文です。

今回の論文

Help-Seeking on Facebook Versus More Traditional Sources of Help: Cross-Sectional Survey of Military Veterans.

Teo AR, Marsh HE, Liebow SBL, Chen JI, Forsberg CW, Nicolaidis C, Saha S, Dobscha SK

J Med Internet Res. 2018 Feb 26;20(2):e62. doi: 10.2196/jmir.9007

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29483064

論文を3行で説明!

アメリカの研究チームが、精神的問題ないし自殺念慮を抱える退役軍人(※)270人に対し「Facebookを用いて精神的な助けを求めますか?」と訊いて調査しました。

※この場合の退役軍人とは、定年の他にも精神的な問題で一線を退いた方も含むため、年齢には幅があります。

すると、Facebookだけでなくソーシャルメディア全体が、精神的な助けを求める場としてはまだほとんど浸透しておらず、その代わりの役目を果たすのは依然として臨床心理士などの専門家や、身の回りの家族友人であることが分かりました.

これには彼ら退役軍人がFacebookに対して抱く「プライバシーが心配」や「冷たい空間である」などのいくつかのマイナスイメージが原因ではないか、と研究チームは考察しています。(詳しくはのちほど)

論文の詳細な内容

ソーシャルメディアは今や人々の生活に欠かせないものとなり、それは軍人の方も例外ではありません。また、「病気になったとき同じ症状の仲間をインターネットで探す」のような行動をとる割合も、一般人と軍人とでほぼ同じであるということも分かっています。私達の多くが抱くイメージとは異なり、軍人の方もソーシャルメディアを通して日々仲間を見つけていると言えるでしょう。

さて、この論文の研究チームは精神面での問題を抱える退役軍人270人を対象にアンケートを行いました。このアンケートは、次の4つの手段(1)Facebook(2)電話相談(3)精神的援助の専門家(4)家族友人などの身近な人にそれぞれどれくらい助けを求めるかを選ぶという選択式の形を取っています。また、この他に性別、年齢、居住地などの基本的な属性や、「普段どのくらいソーシャルメディアに馴染みがあるか」「メンタルヘルスと自殺念慮※どちらに悩んでいるか」なども調査されました。そしてこのあと、得られた結果を統計的に分析しました。

※自殺念慮:自殺したい気持ち

結果

対象人数270人のうち、60%にあたる162人がFacebookの利用者でした。しかしこれだけ高い割合の人数が利用していながら、「Facebookを通して助けを求めるか?」という質問には、ほとんどがNOと答えたのです。

そして、この傾向は性別や年齢、「ソーシャルメディアへの馴染み度合い」や「抱える問題がメンタルヘルスか自殺念慮か」などの属性を問わず見られた傾向でした。群間でごくわずかな差はあるものの、Facebookは精神的援助を求める先として「なし」という回答が圧倒的だったわけです。

【図1】Facebookユーザーがメンタルヘルスについて(1)Facebook(青)、(2)電話相談(オレンジ色)、(3)精神的援助の専門家(灰色)、(4)家族友人などの身近な人(黄色)にそれぞれ、どのくらい助けを求める可能性があるかについて、各選択肢を選んだ人数を表した棒グラフである。左端の”Extremely Unlikely”が「きわめて可能性が低い」、右端の”Extremely Likely”が「きわめて可能性が高い」を表す。”Extremely Unlikely”は青い棒グラフが120に近い。これはすなわち、Facebookに助けを求める可能性は「きわめて低い」と回答した人が120人弱であった、ということが読み取れる。

 

【図2】図1と同様の棒グラフだが、今度は、自殺念慮を抱いた場合に、どれくらい助けを求める可能性があるかを示した図である。自殺念慮になると、Facebookで助けを求める可能性はきわめて低いと答えた人が120人より多かったことが分かる。

 

この結果が得られた理由として、研究チームは以下の 5つを挙げています。

  1. Facebookの友達はいわば「Facebookともだち」であり、本当の友人とはいえないから。

  2. Facebook上で精神的問題を打ち明けることは屈辱的に思う人がいるから。人というのはFacebook上では自分の良い面を出しがちで、そんな中(助けを求めるなどという)屈辱的なことはできない、という思いが彼ら退役軍人にとって障壁になっているかもしれない。

  3. Facebook上でのやりとりはどちらかというと人間味を欠いていると受け取られているから。自分の地位が上がったことなどをFacebook上の友達が一斉に目にする「投稿」という形で発信する風潮が、このイメージを後押ししているのかもしれない。

  4. 今回の参加者はFacebookについて、精神的問題を打ち明けるにあたって信用に足る空間だとは認識していないのかもしれない。プライバシーに対する懸念から助けを求めづらくなっている可能性があり、また、ソーシャルメディアに対する信頼がアメリカでは低いことを示唆する研究もあるようだ。

  5. 一般にFacebookを利用する動機が健康問題であることは極めて少なく、退役軍人の方々にとってFacebookは単純に助けを求める手段として頭に浮かばないのかもしれない。

まとめると、Facebookは現状の形では抑うつ状態の退役軍人の方にとって、精神的援助を求める先として全く認識されていないと言えます。代わりとして従来型の援助が頼れるあてであるということがわかりました。

ライターから一言

いかがでしたでしょうか。Facebookで助けを求める人が少ないというのは予想がしやすかったと思いますが、論文でFacebookそのものの分析、批評を述べている論文は新鮮に感じました。論文の向こうの著者の人物像が少しばかり窺えるのは興味深いですね。(ライター:MS2)

Abstract 翻訳

背景 Background

自殺の前にFacebookに投稿される個人のエピソードにばかりメディアは注目してきたが、ソーシャルメディアが助けを求める先(=援助資源)としてどのぐらい受け取られているか、また、メンタルヘルスの問題に対する他の援助資源と比べてどうであるかなどはまだ不明瞭なままである。

目的 Objective

この研究はうつを抱える退役軍人が、ソーシャルメディアを、その他の従来的な援助資源と比べてどのくらい用いているかを評価することを目的とした。

手法 Methods

大うつ病を抱えているとされる退役軍人の成人270人に記入式の横断調査を行った。全般性援助要請尺度(General Help-Seeking Questionnaire)と呼ばれるアンケートを修正、変更したものを用いて、援助要請の意図(誰にどれくらい助けを求める可能性があるか)を調べた。Facebookを使っている者と使っていない者の違いは、T検定とカイ二乗検定、混合モデルを用いて比較した。さまざまな援助要請方法の関係は混合モデルを用いて調査した。

結果 Results

参加者の過半数はソーシャルメディアを利用しており、さらにそのうち最も多いのはFacebookであった。援助要請意図の平均点はFacebook利用者と非利用者の間で似通っており、これは潜在的な交絡因子(「原因と関係があり」、かつ「結果と因果関係を持っている可能性がある」因子のこと)に対する調整を行った後でも同じであった

Facebook利用者が精神的な問題や自殺念慮を抱えている時に助けを求める場としてFacebookを認識する事は極めて少なそうである。Facebookのそれと比べて心理士などの公的な援助、友人等の私的な援助や電話相談等への援助要請意図の方が有意に大きかった。そしてこれらの結果は他のソーシャルメディアや女性、そして若者に絞っても大きな変化はなかった。

結論 Conclusions

現行の形では、ソーシャルメディアのFacebookは、精神的問題や自殺に関する助けを求める場としては認識されていない。