「自殺」をネット検索: 疫学データとの関連と予防プログラムのための一知見

我々は日常的にインターネットを用いてさまざまな情報にアクセスしています。インターネットから得られる情報は我々の生活をより豊かなものにしてくれますが、近年ではその弊害もまた指摘されています。自殺の幇助(ほうじょ)となりかねない情報はインターネット上に溢れており、時にインターネットを介した繋がりは人を追い詰めます。

今日はインターネット上において、「自殺」というキーワードが検索されるトレンドと自殺の実態的な統計の推移がどのような関係性にあるかを研究した論文を紹介します。

今日の論文

Internet searches for “suicide”, its association with epidemiological data and insights for prevention programs. Waszak PM, Górski P, Springer J, Kasprzycka-Waszak W, Duży M, Zagożdżon P. (2018) Psychiatr Danub. 30(4):404-409. https://doi.org/10.24869/psyd.2018.404

論文を3行で説明!

ポーランドの研究チームが、Googleにおける自殺の検索トレンドと自殺の実態統計の推移にどのような関係性があるか調査しました。

検索トレンドと実態統計の推移は逆相関する傾向にありました。自殺という検索ワードは冬季、週の始め、夜間帯に検索されやすい傾向にありました。

インターネット上における自殺の検索トレンドを明らかにすることは、より効果的な自殺予防プログラムを構築するために重要であると考えられます。

 

研究の詳細な内容

自殺率の高さは日本において問題となっていますが、ポーランドもまた例外ではなく、2014年の自殺率は1万人あたり1.5人でした(同年の日本は1万人あたり2.0人)。

自殺リスクが高い人々は必ずしも指定された機関や個人にではなく、オンライン上で助けを求める傾向にあるという報告があります。自殺に関する情報を求める人々のネット上での行動を理解することは、自殺予防の戦略をより良いものとしていくために重要なことです。

Google トレンドのサービスを使うことで、オンライン上の大量の検索データを解析することは、以前に比べ容易になっています。感染症や精神疾患の発生予測においてもこのツールの有用性は示されています。しかしながら、Google トレンドを用いた自殺の研究に関するエビデンスはまだまだ限定的なものです。

グダニスク医科大学のWaszak氏らは、ポーランドにおいてポーランド語で検索されている自殺に関する情報(2004年1月〜2016年12月)のやそのトレンド、最もよく検索されたフレーズ、及び自殺に関する実態統計との相関を分析しました。

結果

年次推移を見ると、2004年から2014年にかけてポーランドでは自殺による死亡者数は増加していました(2004年: 1万人あたり1.28人→2014年: 1万人あたり1.60人)。一方、Google検索における自殺に関する検索数は段階的な減少を示していました。すなわち、両者は負の相関を示していたわけですが、統計学的には有意なものでありませんでした(R=-0.2, p>0.05)。

 ※ ■が1万人あたりの自殺志望者数の推移、◆が自殺に関する検索数

 

地域別には、ポーランドにおいて最も自殺率が低かった地域(1万人あたり0.8人)の自殺に関する検索ボリューム(ある時間ある地域においてどれだけ頻繁に検索されていたかを示す指標)は高かった一方、最も自殺率が高かった地域(1万人あたり2.3人)の検索ボリュームは低い値でした。こちらについても負の相関を示す傾向にありました(R=-0.22, p>0.05)。

月次推移(図C)については、1月、5月、10月、11月に検索数は多く、夏季(7〜9月)には少ない傾向にありました。週単位(図A)でみると、検索数は火曜日にピークを迎え、週後半にかけて徐々に減少し、週末から月曜日にかけて再び増加に転じていました。時間(図B)単位では、深夜1時〜3時にピークがあり(p<0.001)、早朝に最低となりその後は再び増加に転じていました。

最も検索されたフレーズは「(彼が)自殺した((he) committed suicide)」、次いで「どうやって自殺するか(How to commit suicide)」、「死 (death)」でした。

ライターから一言

論文の考察でも述べられている通り、類似の先行研究では検索数と自殺者数に正の相関が認められているものもあります。相反する結果が今回得られたことについては、自殺そのものがさまざまな要因によって引き起こされる現象であるため、特定の要因と直接的に結びつけることが難しいということを示しているのかも知れません。

とはいえ、インターネット上のさまざまな情報から我々の行動を予測する取り組みについては、急速な進歩を見せています。こういったアプローチがより現実的なレベルで自殺予防対策に生かされる日は少しずつ近づいてきているのかも知れません。(ライター:Dr.)

Abstract 翻訳

背景 Background

インターネットで検索されている情報を分析することは疾病の発生や健康関連行動を予測するために有用な手段であることが知られている。本研究の目的は、「自殺(suicide)」をキーワードとしたGoogle検索のトレンドを定量的に示すとともに、ポーランドにおける自殺者数との相関を分析することである。

対象と方法 Subjects and methods

我々はGoogle トレンドを用いて2004年から2016年までのデータを収集した。統計解析は年次、月次、日次および時間ごとのデータに対して行った。ポーランドにおける自殺に関する公式データは同国の中央統計局と警察本部から収集した。

結果 Results

ポーランドにおいて自殺率は大幅に上昇していたにも関わらず、2004年から2014年にかけてのGoogleにおける「自殺」をキーワードとした相対的な検索ボリュームは徐々に減少していた(R=-0.24)。地域の自殺率と検索ボリュームの間にも逆相関が認められた(R=0.22)。検索ボリュームが最も高かったのは冬季、週の始め、夜間帯であった(p<0.001)。

結論 Conclusions

以上の結果はより効果的な自殺予防プログラムの構築に貢献するものかも知れない。自殺に関する情報が最も検索される時間帯を明らかにすることで、我々は自殺リスクのある者により繋がれるようになるだろう。